大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)2503号 判決 1992年1月29日

甲事件原告(乙事件原告)

高野清一こと朴孝一

甲事件被告

五十嵐栄

乙事件被告

前田勝成

主文

一  (甲事件)

反訴被告五十嵐栄は反訴原告朴孝一に対し、金七四万七二六三円とこれに対する平成元年四月六日より右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  (乙事件)

被告前田勝成は原告朴孝一に対し、金二五万七九九二円とこれに対する平成元年五月一一日より右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告(甲事件)・原告(乙事件)朴孝一のその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用は、甲、乙両事件ともそれぞれその費用を五分し、その三を反訴原告(甲事件)・原告(乙事件)朴孝一の負担とし、その余の反訴被告五十嵐栄(甲事件)、被告前田勝成(乙事件)の各負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  (甲事件)

反訴被告(以下「被告」という。)は反訴原告(以下「原告」という。)に対し、金一九〇万六三七六円とこれに対する平成元年四月六日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  (乙事件)

被告は原告に対し、金四八万三一三三円とこれに対する平成元年五月一一日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記の交通事故の発生を理由に、被告らに対し、自賠法三条により、それぞれ損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

第一事故(甲事件)

(一) 日時 平成元年四月六日一七時三五分頃

(二) 場所 名古屋市中区栄四―一―一

(三) 加害車両 被告五十嵐運転の普通乗用自動車(タクシー・名古屋五五え二〇四六)

(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(タクシー・名古屋五五え六一二〇)

(五) 事故態様 追突

第二事故(乙事件)

(一) 日時 平成元年五月一一日

(二) 場所 小牧市下針町中島一―二七

(三) 加害車両 被告前田運転の普通乗用自動車(名古屋七八の二八〇)

(四) 被害車両 原告運転の普通貨物自動車(岐阜四〇む六〇四一)

(五) 事故態様 追突

2  責任原因

被告らは、それぞれ加害車両を保有し、自己のために運行の用に供する者である。

二  争点

被告らは、原告は本件各事故によつて受傷しておらず、原告に損害が生じたことを争つている。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨を記載することを省略する。)

一  甲三、四、五の一・二、六、七の一・二、八、一三、乙一ないし六、原告(第一、第二回)・被告五十嵐栄・被告前田勝成各本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

1  原告は、本件第一事故の翌日、濃成病院の診療を受け、頸椎捻挫により約三週間の入院加療を要する旨の診断を受け、翌八日から同月二六日まで右病院に入院(入院日数一九日)し、次いで翌二七日から同年五月九日まで同病院に通院(通院実日数一二日)して治療を受けたのであるが、同月一一日に本件第二事故に遭つて、頸椎捻挫の診断を受け、同日より同月三〇日まで右病院に通院(通院実日数一六日)して治療を受け、その後は治療をしていない。

2  濃成病院の医師の当初の診断は、頸部強直し頸部の運動も極めて制限され、後屈時障害があるなど、いわゆる鞭打損傷が認められ、安静と頸部固定保持のための入院が必要である、とするものであつたが、レントゲン撮影、C・Tスキヤンで認められる第一、第二頸椎部の圧痛、頸椎変形、第六、第七頸椎の骨刺形成は、いずれも加令的変化によるものであり、交通事故に基づくと思われる他覚的所見は何ら認められず、疼痛も自制可能な軽度のもので、入院当日のカルテには「退院しても良いくらい」との記載がなされている。第一事故による治療は、継続する頸部痛、頭痛に対して鎮痛、消炎、自律神経用剤の投与及び理学療法を中心とした治療が続けられ、五月九日に完治しないまま治療中止となつた。第二事故の際も傷病名は頸椎捻挫と診断され、事故当日より、他覚的所見がみられぬまま前回同様に鎮痛、消炎を目的とした薬剤の注射、湿布及び理学療法が継続的に行なわれ、五月三〇日を最後に治療は中止になつた。

3  第一事故は、ほんのわずかに下り坂になつている路上において、さきにサイドブレーキを引いて停車中の被害車両の後方約一メートルの地点に停車した被告五十嵐運転の加害車両が、サイドブレーキの引きが甘かつたためか、ずるずると緩やかな速度で発進し、その前部が被害車両の後部に追突したものであり、第二事故は、渋滞中の路上において、発進、停車を繰り返している際、被告前田が約二メートル前方に停車の被害車両が発進したものと思つて加害者両を低速で発進させたところ、その直後に被害車両がまだ停車中であることに気付き、慌ててブレーキをかけたが及ばす、その後部に自車の前部を追突させたものであつて、いずれの事故も停車中の被害車両の後部に加害車両が至近距離から低速で追突したもので、追突時に被害車両はほとんど移動していないか、移動したとしてもほんのわずかの移動であつたとみられ、追突による車両の損害も、第一事故の場合にあつては修理を要する程のものはなく、第二事故の場合も両車両の損傷はわずかであつて被害車両に要した修理費用は約三万五〇〇〇円であつた。

4  原告は、第一事故時の状況につき、「衝突の瞬間ドーンと大きな音がし」、「車が前後左右にゆれると共に首も前後にゆれたため、ズキンと痛みが走り…大きな衝撃がありました」、衝突の瞬間は「首と頭が後方にしなりました」などと供述しており、事故直後の現場においても、被告五十嵐に対し、「ぶつかつたな、首が痛いがどうしてくれる」「金で解決するか人身事故にするか、二、三日余裕を与えるから考えておけ」などと発言しており、その後、被告五十嵐側の保険会社の担当者に対し「時速約三〇キロで追突された」旨、医師に対しても「下り坂でブレーキなしで衝突を受け、かなりの衝撃を受け、車のバンパー陥入が認められた」旨の説明をしている。なお、原告は、事故後、翌日の午前二時頃までタクシーの営業運転を続け、その後仮眠をとり、同日午前九時頃に帰社して通常の通勤を終えており、その後入院した原告は、見舞に訪れた被告五十嵐に対し「返事がないので入院した」旨述べている。また、原告は、第二事故の際も、現場において、被告前田に対し「幾らぐらい持つている」「五万円では駄目だ、一〇万円出せば警察を呼ばないで済ませてやる」などと発言している。

二  ところで、被告らは、両事故とも追突によつて被害車両は前に押し出されることがなかつたことを前提に、加えて、濃成病院での治療内容や原告の事故後の言動などに照らし、原告の本件各事故による受傷の事実はなかつたとして、これを争つている。そこで検討するに、前項で認定の事実によると、各加害車両は、いずれも一ないし二メートルの至近距離で発進して停車中の被害車両の後部に緩やかな速度で追突しており、その際の衝撃により、被害車両は前方に全く押し出されていないとまでは未だ断定することができないとしても、せいぜいわずかに前方に移動した程度に過ぎないものと考えられ、被害車両に乗車していた原告の首ないし上体に体する追突の衝撃もそれ程大きなものではなかつたと考えられる。しかしながら、濃成病院の医師の診断と治療経過に照らすと、衝撃がわずかであつたからといつて、原告が本件事故によつては全く受傷していないとも言い切れないが、右治療経過と原告の事故後の言動等を併せて考えるならば、原告は、本件両事故により、入院の必要性すらも疑問なしとしない程度の、専ら自覚症状を中心とする頸部痛、頭痛等の症状の傷害を受けたとみるのを相当とする。そして、その症病の部位・程度、入・通院の必要度、治療内容、原告の医師に対する対応等を総合すると、原告が本件各事故で蒙つた後記認定の損害のうち、その六割を被告らに負担させるのが公平の観念に照らして相当と考える。

三  損害

(第一事故)

1 治療費(請求五八万一九四〇円) 五〇万九七四〇円

乙八、九によると、右金額が認められる。

2 入院雑費(請求二万四七〇〇〇円) 二万二八〇〇円

入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、一九日間で右金額となる。

3 交通費(請求二万二四〇〇円) 三一八五円

原告本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨によると、原告は、自家用自動車を利用し、自宅から少なくとも七キロメートル離れている濃成病院に通院したが、右自動車は一リツトル一四〇円のガソリンで約八キロメートルの走行が可能であることが認められるので、通院一三回に要した通院費用は三一八五円となる。

140円×8km/l×14km×13回=3185円

4 休業損害(請求額三七万七三三六円) 二二万六三八〇円

乙一一及び弁論の全趣旨によると、原告は、第一事故当時、西友交通にタクシーの運転手として通勤し、一か月平均二〇万五八二〇円の収入があつたが、右事故により、平成元年四月から同年五月九日までの三三日間の休業を余儀なくされたことが認められるので、その間の休業損害は右金額になる。

5 慰謝料(請求七〇万円) 三五万円

前記認定の受傷の部位・程度、入・通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

6 以上により、第一事故により原告が蒙つた損害は一一一万二一〇五円になるところと、前認定のように、本件事故と相当因果関係があるとして被告に負担させるのを相当とする金額は、その六割に相当する六六万七二六三円となる。

7 弁護士費用(請求二〇万円) 八万円

事案に照らし、弁護士費用は右金額を相当とする。

(第二事故)

1 治療費(請求も同様) 七万二二〇〇円

乙一〇によると、右金額が認められる。

2 交通費(請求五六〇〇円) 三九二〇円

前記認定のとおり、通院一六回に要した通院費用は、計算上、右金額になる。

3 休業損害(請求一三万五三三三円) 一三万七二〇〇円

弁論の全趣旨によると、原告は、第二事故により、平成元年五月一一日から同年五月三〇日までの二〇日間の休業を余儀なくされたことが認められるので、前認定のとおり、計算上、その間の休業損害は右金額となる。

4 慰謝料(請求二〇万円) 一五万円

前記認定の受傷の程度、通院回数等を考慮すると、右金額になる。

5 以上により、第二事故により原告が蒙つた損害は三六万三三二〇円になるところ、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に負担させるのを相当とする金額は、前認定のとおり、その六割に相当する二一万七九九二円となる。

6 弁護士費用(請求七万円) 四万円

事案に照らし、弁護士費用は右金額を相当とする。

四  以上によれば、原告の請求は、被告五十嵐栄に対して七四万七二六三円、被告前田勝成に対しては二五万七九九二円とそれぞれこれに対する本件各事故当日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 大橋英夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例